いきなり痛い話で恐縮ですが、口内炎ができているとき、ものを食べるとしみてきます。しみるものほど知覚神経刺激作用が強い食べ物になります。

そのひとつが、塩です。ところが、トウガラシもそうですが、塩も傷口に大量につけていくと、はじめは痛いのですが、徐々に傷口がしびれてきて、痛みがなくなります。

これは、知覚神経を強く刺激するものに共通した性質です。刺激によって知覚神経からは、痛みを引き起こすサブスタンスPという物質が放出されます。しかし、刺激があまりにも強いとサブスタンスPは放出されつくし、そのため痛みがなくなっていくのです。

知覚神経内にあり、IGF‐1をふやす物質であるCGRPも、サブスタンスPと共に放出されるので、強い刺激を受けると枯渇してしまいます。つまり、知覚神経への刺激があまりにも強すぎると、知覚神経麻痺の状態になり、このような状態では、IGF‐1はふえるどころか、かえって減少するのです。

知覚神経麻痺をうまく利用した事例をひとつご紹介します。唾液に含まれる上皮成長因子(EGF)は、知覚神経刺激作用があり、IGF‐1をふやし、育毛効果を促進します。

ところが、EGFを大量に羊に注射すると、羊の毛の成長が一時的に止まり、その部分の毛が細くなります。その後、また毛が伸び始めると、成長した毛の一部が緇くなっているので、その部分から毛が切れて、羊毛が収穫しやすくなるのです。ニュージーランドでは、この現象を羊毛の収穫に利用しています。

さて、話を塩に戻します。塩そのもの(塩化ナトリウム)には、知覚神経刺激作用があることが実験でも明らかになりました。そこで動物実験で、過剰な塩分を与えて胃腸の知覚神経への影響を調べてみました。

具体的には、2%の食塩水をマウスに4週間経口投与したら、胃の知覚神経の数が明らかに減少し、海馬のIGF‐1も減り、認知機能が低下することがわかったのです。このことからも、過剰に慢性的に知覚神経少刺激すると、知覚神経の機能が低下することが明らかになりました。

 

胃のの知覚神経は、刺激されるとCGRPを放出します。CGRPは、刺激情報を他の神経に伝えるほか、近くの細胞や放出した知覚神経自身にも作用して、IGF‐1を作らせます。IGF‐1は、細胞の再生を促進する作用や、その死を抑制して、細胞の寿命を延ばす作用を持っています。

したがって、過剰な塩分の慢性的な摂取は、胃の知覚神経のCGRPを枯渇させ、知覚神経自身のIGF‐1の産生をも低下させるために、知覚神経の寿命が短縮してしまうのです。そのために、過剰な塩分が長く投与されたマウスの胃では、知覚神経の数が減少しました。その結果、胃の知覚神経刺激情報の脳への伝達量が低下し、海馬のIGF‐1が減少することで認知機能が悪くなります。

私たちも、毎日過剰な塩分をとっていると、胃の知覚神経のCGRPの枯渇を招き、胃をはじめ全身のIGF‐1が減少してしまうと考えられます。ひいては発毛も阻害されてしますことにつながります。